世界のドンガラガッシャン


邂逅の第百二十七回

 暇だ暇だ暇だ、誰か遊んでくれよう、ギターのオッサンです。長期バカンスも既に1ヶ月を過ぎ、のんべんだらりと過ごす日々にも飽きてきた。とはいえ会社から書類が届かないので求職活動もままならず、1日12時間寝たり19時間ぶっ通しでプレステやったりCDのケースで塔を作ってそれを倒してワハハと笑ったり、全くもって無駄な日々を過ごしております。少しは建設的にならんとなあ。

 で、CDケースの塔を倒して思い付いたのだが、この場面をマンガにした時の効果音は「ガシャバシャ」という感じであろう。日本語の場合、文字のひとつひとつに音が対応するので、現実に聞こえる音をそのまま文字にすれば効果音として成り立つ。「ドンガラガッシャン」という文字を見れば「調子に乗ったウエイターが大量の料理をトレーに乗せて気取って歩いている時にイスの足につまずいてひっくり返ってまあ大変」といった情景が目に浮かぶのである。これ、外国ではどうなんでしょ。世界各地でウエイターがトレーをひっくり返した音はどう表記するのでしょうか。「世界のドンガラガッシャン」はどうなっているのであろうか。

 とりあえず文字による効果音で真っ先に思い付くのは「アメコミ」でしょう。ビルの壁をよじ登るバカや、電話ボックスで着替えるバカや、ハチマキを巻いたカメが活躍するのでお馴染みのアメリカの非常に大雑把なマンガである。ちょいと探してみたところ、あるにはあるのだが意味がサッパリわからん。「WHOOMP」「TAAAAU!」「Ta-da!」「ZZOOP!」って発音からしてオイラには無理だ。文字重ねりゃイイってもんじゃあないだろ、全くアメリカ人ってヤツは。
 たまたま手元にある本にアメリカのマンガが載ってまして、それを見ると女性が悪いヤツに襲われそうになっているのだが、フキ出しの台詞ではなく効果音として「HELP!」と後ろに書いてある。日本だと「キャー!」であろうか。しかし「HELP!」そのものに「助けて−」という意味が含まれている訳で、日本語の「キャー!」とはまた意味合いが違うようだ。「キャー!」そのものに意味はないからなあ。
 更にたまたま開いた辞書で「The ball crashed against the window and broke it.」の訳例に「ボールが当たって窓がガシャンと割れた」書いてあったのだが、どこに「ガシャン」があるのか。おそらく「ボールが窓ガラスにぶつかって壊れたなら音がするのは当然な訳で、いちいち音を書かなくてもわかるだろうが!」ということなんだろうなあ。たしかに窓が割れた時に「ポヨン」などという音がする事は滅多にないだろうし。

 文字による効果音には「擬声語」「擬態語」がある。「擬声語」は音の響きを文字にしたもの(ワンワン、にゃーにゃー等)、「擬態語」は状態を音に例えて文字にしたもの(ふわふわ、キラキラ等)である。これらは「オノマトペ」と呼ばれるのだが、これは本来「擬声語」のみをさすらしい。というのも外国語では「擬態語」に当たるものがあまりないからだそうだ。ムダ知識としては、この「オノマトペ」を柔道の井上康生も研究しているらしく、彼の修士論文のタイトルは「柔道の動きを表現するオノマトペ」だそうだ。ちょっと読んでみたい。更に長島茂雄は擬声語の宝庫である。「ビュっときてバーン」など、もはや常人には理解不能である。音で全てを表現できるとはもはや神の領域である。
 話もどって、例えばのび太がジャイアンに殴られる時は「ボカッ」などの効果音が書かれるであろう。英語版でも「BANG!」「SMASH!」等の効果音が書かれると思う。その帰り道、悲しみに打ひしがれて歩くのび太の足音として「とぼとぼ」という効果音が書かれる事でのび太の哀愁が増すわけだが、だからといって英語版のマンガに足音は書かれないと思うのだ。それに類する英語が見つからんのだ。その代わりに「歩く」にしても「trudge」や「plod」のように「トボトボ歩く」といった動詞が存在するので、後ろに「trudge...trudge...」などと書かれるかもしれないが、これは音を表しているのではない。「ドタバタ走る」もおそらく「run noisily」が使われるだろうが、それ自体に「ドタバタ」を表す音はない。「ノソノソ歩く」だと「walk slowly」かな。ああ面倒くさい。このように、擬態語に当たる言葉は、それ自体の意味を持つ別の単語でフォローされる事が多く、単独の擬態語は英語にはあまり存在しないようだ。

 一方、擬声語は当然色々あるのだが、どうも日本とはイメージが違う。擬声語と言えばワンワン、ニャーニャー、鳴き声が比較しやすそうなので、各国鳴き声比較を記します。



































【鳴き声いろいろ】

いぬ ねこ うし にわとり
日本語 wan wan nyaa nyaa moo moo kokekokkoo
英語 bow wow mew/meow moo cock-a-
doodl-doo
フランス語 oauh oauh miaou meuh cocorico
ドイツ語 wau wau miau muh kickeriki

*参照「音のなんでも小事典」日本音響学会

 ここで注目はニワトリの鳴き声フランス語版、ココリコである。千秋のダンナとアゴ男である。いやそれは関係ないか。日本語の部分もローマ字にしてみると、日本語の特殊性が浮き上がるなあ。犬猫牛鶏とも国籍で鳴き声が違うと思えんので、音の捉え方の違いなのであろう。ところでアメリか生まれアメリか育ちの犬に「お手」と日本語で命令したらどのような反応を示すのだろうか。これは今後の研究課題としよう。中国の犬は漢字で鳴くのだろうか。「ワオーン」が「和音」だったらイヤだな。

 なかなか「ドンガラガッシャン」にたどり着けないなあ。とりあえずガラスの割れる音あたりから探ろう。オイラはいっちょまえにサンプラーなどを操るので、サンプリング用のCDなどを結構持っていて、その中には「Sound Effect」と言うものもある。いわゆる効果音である。ガラスの割れる音も入っていて、タイトルは「Glass Crash」そのまんまだ。様々なガラスの割れる音が録音されており、ストレス解消にはもってこいのCDである。このCD、アメリカ製なのだ。各音にファイル名が付いており、「shatter」「clank」などと名付けられている。この辺がアメリカにおけるガラスなどの割れる音だと思う。「ドンガラガッシャン」は単一の音ではなく、「ドン」「ガラ」「ガッシャン」の3文節なので、イイ感じの単語を3つ並べてみよう。

「clink-clank-clang」

 どうざんしょ。語呂も結構良いし、辞書で調べたら3つとも物が衝突したりした時の音を表すようだ。その規模の小さい順に並べてみました。これこそドンガラガッシャン、ああ満足。

 ちょっと変な話になるが、生まれつき耳が不自由な人にとって、文字による効果音は空想の産物でしかないのだろう。目覚まし時計の絵があって「ジリリリ」という文字があると「目覚まし時計が鳴っている」という事は理解できるのであろうが、その「ジリリリ」がどんな音なのかはわからないはずだから。「雨がシトシト降る」という表記を見て、雨が降る時に「シトシト」という音がすると思っているのであろうか。それでもアメコミの「Boooooon!!!」にくらべれば情緒があるよなあ。これは言葉の持つ情報量にも通ずる部分なのだが、日本語の方が表現力、創造性共に優れていると思うのはオイラが日本人だからか。アメリカの耳が不自由な方、「Booooooon!!!」をどのように理解していますでしょうか。そんな音は無いと思うのだがなあ。

          拘泥の第百二十八回に続く

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溝江 健

Last Update : 2004/10/11

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